最高裁判所第二小法廷 平成8年(行ツ)2号 判決 1997年11月28日
横浜市港南区上大岡西一丁目一三番八号
上告人
東洋リビング株式会社
右代表者代表取締役
牛田唯一
右訴訟代理人弁理士
三好秀和
城下武文
岩﨑幸邦
東京都台東区東上野三丁目二一番六号
被上告人
トーリ・ハン株式会社
右代表者代表取締役
原章
右当事者間の東京高等裁判所平成五年(行ケ)第四七号審決取消請求事件について、同裁判所が平成七年九月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人三好秀和、同城下武文、同岩﨑幸邦の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難し、原審の認定に沿わない事実を前提として原判決を論難するか、又は独自の見解に立って原判決の違法をいうものであって、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 福田博)
(平成八年(行ツ)第二号 上告人 東洋リビング株式会社)
上告代理人三好秀和、同城下武文、同岩﨑幸邦の上告理由
一、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背および判断遺脱があるから、破棄を免がれないものである。
1、実用新案法第9条(平成5年法律第26号による改正前のもの、以下同じ)で準用する特許法第41条(平成5年法律第26号による改正前のもの、以下同じ)の解釈の誤り
(1) 判決は、実用新案法第9条で準用する特許法第41条で規定する補正後の考案が、明細書の要旨を変更するものであるか否かにつき認定判断するにおいて、
「願書に最初に添付した明細書又は図面」(以下当初明細書という)に記載した事項の範囲内であるか否かにつき、下記に述べるように、当初明細書の実用新案登録請求の範囲記載の考案と、補正後の実用新案登録請求の範囲記載の考案とを対比して認定判断しており不当である。
「当初明細書の以上の記載によれば、当初明細書に記載された発明は、加熱体の熱を有効に利用してシャッターの開閉力を得るものであって、その開閉力を与える手段としてコイル状記憶合金線(記憶合金)を用い、このコイル状記憶合金線(記憶合金)を乾燥剤加熱容器内に配置することを必須の構成としたものであることが明らかであり、当初明細書には、コイル状記憶合金線(記憶合金)を「乾燥剤加熱容器内」以外の場所に配置することに関して、何らの記載もなく、また、これを示唆する記載はないことが認められる。」(判決文17頁16行~18頁5行)
この判決文の「必須の構成」という表現は、実用新案法第5条(平成5年法律第26号による改正前のもの、以下同じ)で規定する実用新案登録請求の範囲の記載要件である「実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項」を意味する慣用された表現であるから、この判決文の「当初明細書に記載された考案(判決文の発明は誤り)は、……このコイル状記憶合金線(記憶合金)を乾燥剤加熱容器内に配置することを必須の構成としたものであることが明らかであり、……」における「当初明細書に記載された考案」は「当初明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された考案」を意味するものであることは明らかである。
また、判決が、当初明細書の実用新案登録請求の範囲記載の考案と、補正後の実用新案登録請求の範囲記載の考案とを対比して要旨変更の有無を判断していることは下記の料決文(イ)、(ロ)によっても知ることが出来る。
(イ) 「本件補正は、当初明細書に記載されていた記憶合金線を乾燥容器内に設ける構成からなる発明を、記憶合金線を乾燥容器の近傍に設ける構成からなる発明に改めたものであって、明らかに、当初明細書の要旨を変更するものといわなければならない。」(判決文19頁17行~20頁1行)
この判決文において、「発明に改めたものであって、」という表現からみて、この判決文(イ)の意味は、具体的には当初明細書の実用新案登録請求の範囲記載の「乾燥剤加熱容器内に記憶合金を配置し、受熱効果を効率良く利用したことを特徴とする自動乾燥器のシャッター開閉の構造。」における「加熱容器内に」を、補正後の実用新案登録請求の範囲記載の「密封キャビネットを庫内側と庫外側に連通する一対の開口を、連結アームで一体的に連結された一組の開閉シャッターにより開閉自在としたユニットケースの乾燥処理室内に、タイマーにより所望時間間隔毎に所定時間宛通電され発熱される加熱体によって加熱される乾燥剤を収容した熱良導性で通気性のある材質で構成した乾燥容器を配設し、該乾燥容器の近傍に、加熱されると収縮するよう処理された記憶合金線を臨ませるようにしてその一端を適宜ユニットケース内に固定させ、他端を前記連結アームに止着させるとともに、前記記憶合金線を伸張させる方向に付勢する引張りバネを連結アームとユニットケースとの間に張設し、加熱体により乾燥剤が加熱再生される期間中のみは記憶合金線が加熱収縮され、前記引張りバネに抗して連結アームを駆動し、前記シャッターにより庫内側の開口を閉止し、同時に庫外側の開口を開放させるように構成したことを特徴とする密封キャビネットにおける自動乾燥装置。」
における「乾燥容器の近傍に」に改めたことは明細書の要旨を変更するものであるといわなければならない、との意味であることは明らかである。
また、次に横線で示す判決文(ロ)における「当初明細書記載の発明は、記憶合金線を「乾燥容器内」に配置する構成を採用していたのに対し、補正明細書記載の発明は、これを「乾燥容器の近傍」に配置する構成を採用したのであって、本件補正により、当初明細書に開示されていなかった「乾燥容器内」以外の「乾燥容器の近傍」に記憶合金線を配置する構成が含まれることになったのであるから、本件補正が当初明細書の要旨を変更するものではないとすることはできない。」も文意からみて実質的に右と同様の意味であることは明らかである。
(ロ) 「被告は、当初明細書に記載された記憶合金線を仕切壁によって仕切られた乾燥容器の下部の空間に配置することと、補正明細書に記載された記憶合金線を乾燥容器の近傍に配設することとは、両者とも乾燥容器内の乾燥剤からの熱を効率良く利用して記憶合金線が受熱によって収縮するようにするという共通の技術的意義を有するものである旨を主張するが、たとえ両者が共通の技術的意義を有するとしても、当初明細書記載の発明は、記憶合金線を「乾燥容器内」に配置する構成を採用していたのに対し、補正明細書記載の発明は、これを「乾燥容器の近傍」に配置する構成を採用したのであって、本件補正により、当初明細書に開示されていなかった「乾燥容器内」以外の「乾燥容器の近傍」に記憶合金線を配置する構成が含まれることになったのであるから、本件補正が当初明細書の要旨を変更するものではないとすることはできない。」(判決文20頁18行~21頁13行)
さらに判決文(ロ)において
「被告は、当初明細書に記載された記憶合金線を仕切壁によって仕切られた乾燥容器の下部の空間に配置することと、補正明細書に記載された記憶合金線を乾燥容器の近傍に配設することとは、両者とも乾燥容器内の乾燥剤からの熱を効率良く利用して記憶合金線が受熱によって収縮するようにするという共通の技術的意義を有するものである旨を主張するが、たとえ両者が共通の技術的意義を有するとしても、……」
と述べているが、両者が共通の技術的意義を有するときは、当初明細書全体の記載に基づいて補正後の考案が明細書の要旨を変更するか否かを判断するときは、当然のこととして明細書の要旨を変更するものとはならないのであるから、この判決文(ロ)の記載内容からみても、判決は、当初明細書の実用新案登録請求の範囲記載の考案と、補正後の実用新案登録請求の範囲記載の考案とを対比して要旨変更の有無を判断していることは明らかである。
(2) ところで、特許法第41条は、「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と規定している。この条文に関し、「工業所有権法逐条解説、特許庁編、発明協会昭和46年1月1日改訂発行」は、次ように解説している。
「〔趣旨〕
本条は、本来要旨変更であるもののうち、特に要旨変更でないものとみなす場合について規定したものである。本条の規定による補正は出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にしなければならず、また、その補正は当初から明細書に記載していた範囲内の事項に限られる。(中略)明細書または図面に記載した事項の範囲内に限ることとしたのは、明細書または図面のいずれかの個所に書いていた事項は、もともと特許出願の際に特許請求の範囲に記載して自己の権利の内容とすることができたものであるからである。」
また、特許庁の審査基準(特許庁編、特許・実用新案審査基準、発明協会平成5年7月20日初版発行)は、次のように述べている。
「特許法第36条第5項及び第6項の規定によれば、発明の詳細な説明に多面的、段階的に開示した発明の中から、出願人が任意に選び出した発明について、それらの発明が相互に同一であるか否かを問わず、特許請求の範囲に記載できる。すなわち、出願人は、発明の詳細な説明に記載した発明について、その上位レベル、下位レベルを問わず、その構成に欠くことのできない事項のみを特許請求の範囲に記載することができる。その結果、必ずしも明細書の要旨が変更したか否かは、特許請求の範囲の記載に基づいて判断することができなくなり、明細書の要旨変更は、明細書全体の記載について判断することが必要となる。」
右「工業所有権法逐条解説」および「特許庁の審査基準」で示される判断基準は、従来から確立された慣行となっているものである。
判決は、右確立されている判断基準に従わず、当初明細書の実用新案登録請求の範囲記載の考案と、補正後の実用新案登録請求の範囲記載の考案とを対比し要旨変更の有無を判断したことは明らかであり特許法第41条の解釈適用を誤まったものであって判決は法令に違反するものである。
2、判断遺脱
<判断遺脱1>
補正後の考案が当初明細書に記載された考案であるか否かを判断するためには、次の二つの観点から検討することが必要である。
<1>当初明細書に記載の技術的事項と技術用語の意味内容を明らかにし、補正後の考案が当初明細書に記載された考案であるか否かを検討すること
<2>補正後の明細書に記載の技術的事項と技術用語の意味内容を明らかにし、補正後の考案が当初明細書に記載された考案であるか否かを検討すること
上告人(原審での被告、以下同様)は、右<1>については平成6年6月9日付の準備書面(第3回)において、
右<2>については平成7年9月6日付の準備書面(第5回)において主張した。
(右両準備書面は口頭弁論において陳述となっている)
ところが右<2>に関する上告人の主張については、判決文の「被告の反論の要点」において取り上げられておらず、「当裁判所の判断」においても全く審理判断がなされていない。
判決は上告人の右<2>に関する主張を何ら審理判断することなく、「補正明細書の考案の詳細な説明の項及び図面を検討しても、この「乾燥容器の近傍」の意味を「乾燥容器内」と同旨であると解釈すべきことは、何ら記載されていない。」(判決文18頁17~20行)
と認定判断していることは明らかである。
判決が上告人の右<2>に関する主張を審理判断したならば上告人の主張は容認された筈である。
判決には、判決に影響を及ぼすべき重要な事項につき判断遺脱がある。
なお、右<2>に関する上告人の主張は次のとおりである。
被告準備書面(第3回)の「原告の要旨変更に対する判断の誤りの主張について」に加え、次のとおり補充する。
1.補正後の明細書の記載をみると、乾燥容器に関し次のような記載がある。
(1) 「加熱体によって加熱される乾燥剤を収容した熱良導性で通気性のある材質で構成した乾燥容器を配設し、該乾燥容器の近傍に、加熱されると収縮するよう処理された記憶合金線を臨ませる」 (公報1欄6~10行)
(2) 「加熱体3と、この加熱体3を包囲するようにして乾燥剤4を収容した熱伝導性が優れた、しかも通気性のある材質からなる乾燥容器5を配設する」
(公報3欄26~29行)
(3) 「乾燥容器5の下縁部には、3角形状の凹陥部5Aを設は、該乾燥容器5の垂片5Bと、前記係着子9との間にコイル状の記憶合金線11を、結合線12を介装して張設したものである。」
(公報3欄37~41行)
(4) 「乾燥容器5内の乾燥剤4に吸湿されて除湿され」
(公報4欄15~16行)
(5) 「加熱体3が発熱されると、これにより乾燥剤4とともに乾燥容器5の凹陥部5Aに配設されたコイル状記憶合金線11も加熱されて収縮されることになる。」
(公報4欄19~22行)
(6) 「一組のシャッターを駆動する駆動力源として記憶合金線を採用し、該記憶合金線を加熱によって収縮するように乾燥容器の近傍に配設したものであるから、加熱体により乾燥剤を再生処理期間中のみ庫内シャッターにより庫内側の開口を閉じ、同時に庫外シャッターにより庫外側の開口を開放するようにしたものであって、」 (公報5欄18行~6欄2行)
ところで、
「乾燥剤は普通は粒状体であるから、記憶合金線を加熱体からの熱で可動とするためには乾燥剤は記憶合金線とは混在せずに乾燥容器内に封入されていることが必要なことは、乾燥機器の分野では周知の技術的事項である。」
(審決5頁18行~6頁2行)
右(1)、(2)によれば、「乾燥剤を収容した……乾燥容器」、右(4)によれば「乾燥容器5内の乾燥剤4」と記載されている。
これらの記載によれば乾燥容器には乾燥剤が収容されている。
一方右(3)によれば、「乾燥容器5の下縁部には、……凹陥部5Aを設け、……コイル状の記憶合金線11を……張設した」、右(5)によれば「乾燥容器5の凹陥部5Aに配設されたコイル状記憶合金線11」と記載されている。
これらの記載によれば、コイル状記憶合金線は凹陥部5Aに配設されている。
ところで、
「乾燥剤は普通は粒状体であるから、記憶合金線を加熱体からの熱で可動とするためには乾燥剤は記憶合金線とは混在せずに乾燥容器内に封入されていることが必要なことは」
技術常識であるから、凹陥部5Aには乾燥剤は収容されていない。
そうすると本件実用新案登録請求の範囲の記載によると、「……加熱体によって加熱される乾燥剤を収容した熱良導性で通気性のある材質で構成した乾燥容器を配設し、……」
と記載され、乾燥容器には乾燥剤が収容されているのであるから、本件実用新案登録請求の範囲記載の乾燥容器には凹陥部5Aは含まれない。
凹陥部5Aは、乾燥容器5の下縁部に存在する(右(3)の記載参照)のであるから、乾燥容器の近傍(右(1)、(6)の記載参照)とは、具体的には乾燥容器5の下縁部に存在する凹陥部5Aを意味することは明らかである。
これを審決は、当初明細書及び図面との対比において、「記憶合金線7が収縮できる仕切壁の下部の空間は「乾燥容器の近傍』ということができるから、記憶合金線は『乾燥容器の近傍に臨』んでいた構成は、当初の明細書及び図面に記載されていたと認められる。」
と認定判断したのである。審決の認定判断に誤りはない。
<判断遺脱2>
上告人は、被上告人(原審では原告、以下同様)の審決取消事由の主張それ自体について次のように主張した。
一、上告人(原審での被告以下同じ)準備書面(第3回)において
原告の要旨変更に対する判断の誤りの
主張について
1.出願公告前の補正が要旨変更であるか否かの判断は特許法第41条の規定に基づいて判断される。
特許法は次のように規定している。
「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなす。」
2.ところで原告は、平成元年6月2日付の補正が要旨変更であるとの主張を次のようにしている。
(1) 「上記「近傍」が「容器内」よりむしろ「容器外」を意味すると見られるようになったものであるから、もしそうならば要旨変更であると原告は主張しているものである。」
(原告準備書面(第1)19頁11行~14行)
(2) 「「近傍」なる表現の付加と、明細書の詳細な説明及び図面の訂正により記憶合金線の配置位置が容器下部の空間以外に容器の外側空間をも含むようになったものであれぼ、要旨は変更されたとみるべきであり、」
(原告準備書面(第1)21頁16行~20行)
3.そこで原告の右主張を特許法第41条の規定に照らして考察すると、原告の右主張は、右補正が当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるか否かについて何ら言及しておらず特許法第41条の規定に従った主張でないことは明らかである。
従って原告の要旨変更であるとの主張は、主張自体意味をなさないものであり失当である。
二、上告人(原審での被告以下同じ)準備書面(第5回)において
2.原告の要旨変更についての審決取消事由の主張自体について
(1) 原告は審決の下記の認定判断については認めている(原告準備書面(第1)15頁)。
「当初の明細書には、記憶合金線7には加熱体からの熱が乾燥剤を介して伝わり、加熱の進行に伴い、記憶合金7の変態点を越え、その時記憶合金線7は乾燥剤容器8内の空間内で収縮作用するという構成が記載されているものと認められる。
また、乾燥剤は普通は粒状体であるから、記憶合金線を加熱体からの熱で可動とするためには乾燥剤は記憶合金線とは混在せずに乾燥容器内に封入されていることが必要なことは、乾燥機器の分野では周知の技術的事項である。
してみると、当初の明細書の前記の記載及び乾燥機器の分野の周知の技術的事項から、当初の第1図に記載された、乾燥剤容器8の右下の左下がりの斜線は仕切壁であって、記憶合金線7は仕切壁によって仕切られた下部の空間に収縮自在に設けられていると認められる。」
(2) 一方、審決の下記の認定判断については否認している。
「記憶合金線7が収縮できる仕切壁の下部の空間は『乾燥容器の近傍』ということができるから、記憶合金線は『乾燥容器の近傍に臨』んでいた構成は、当初の明細書及び図面に記載されていたと認められる。」
(3) 右(1)、(2)によれば、原告は、「仕切壁によって仕切られた下部の空間」が当初明細書に記載されていることは認めるが、「仕切壁の下部の空間」が「乾燥容器の近傍」ということは否認する。そうであれば原告は、「仕切壁の下部の空間」が「乾燥容器の近傍」ということができないことを主張立証して審決の取消を主張すべきである。
(4) ところが原告は右のような主張立証をしていない。
本件補正は、記憶合金線の配置位置を乾燥剤加熱容器外を含むように拡大したものであるから、要旨を変更するものである、と主張する。
審決は、「記憶合金線7は仕切壁によって仕切られた下部の空間に収縮自在に設けられていると認められる。」と認定判断している(原告はこの認定判断を認めている)だけで記憶合金線の配置位置が加熱容器の内か外かということについては全く認定判断していない。
原告の主張は審決の認定判断していないことを審決の取消事由として主張するものであり不当である。
なお、被告が、「乾燥容器の近傍」とは、「乾燥容器からの熱を効率良く利用できる空間」であることに加え、準備手続期日において「その限りにおいて乾燥容器の内外を問わない」と主張したのは、乾燥容器の内外について議論することは、本件審決取消訴訟において意味をなさないという趣旨によるものである。
被告準備書面(第3回)においては、「『乾燥容器の近傍』の技術的意味は、『乾燥容器からの熱を効率良く受熱できる空間』」とのみ述べている。
(5) ところで侵害訴訟においては、イ号物件が記憶合金線を乾燥容器の外に配置するものであるとき、本件実用新案登録請求の範囲記載の「乾燥容器の近傍」に乾燥容器の外が含まれるか否かが問題となるが、原告の主張はこのような本件審決取消訴訟の判断とは直接関係のない的外れの議論を本件審決取消訴訟の中に持ち込むものであり不当である。
判決が上告人の右主張を審理判断したならば被上告人(原審での原告)の主張自体が不当であると審理判断した筈である。判決は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項につき判断遺脱がある。
以上